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姿は日本の器と見紛うばかりだが、やはりどこか、漂わす空気が違う。無論そこにこそ、遥かなヨーロッパから波に揺られてきた価値があるのだ。
発注したのは、茶道具を扱う大阪の道具商である。フランスへ渡ってこと細かに寸法、形状、文様に注文を出したという。それはすごいが、つくる側も、よくここまで応えたものである。二つの文化を融合させるには、高い感性と深い知識、膨大なエネルギーがいる。「双方、それを持っていたということです」。
フランスはアール・デコの台頭期。ディアギレフ率いるバレエ・リュス、ココ・シャネル、ピカソにマルセル・プルースト---対して日本は都市と鉄道網が形成されて、大正文化が花開いた頃だ。この器を手にした数寄者たちも、ガラスを透かして、そうした時代の息吹をも感じとったことだろう。
「料理はぜひ、五感でお楽しみいただきたい。器の背後にある歴史やエピソードをお知りになることで、味わいも深まることと思います」。
吉兆で使われているバカラには、初代が買い求めたものに加え、当代になって、バカラ社のオファーで吉兆好みにデザインされたオリジナルもある。
つくらせる人、つくる人。そして使いこなす人。三者の見事な仕事から、いま京都の夏に、凛として涼が、一抹の風となって渡りゆくのであった。 |
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