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長い歴史を経て今の形をなしてきた日本料理は、日本の文化そのものだ。食材の選び方や季節にあった調理方法といった味だけでなく、器の選び方、部屋の佇まい、香の焚き方など様々な要素を組み合わせて客をもてなす。食通や世界各国の要人までがこぞって吉兆を訪れるのは、味はもちろんのこと、湯木貞一が提唱した茶の湯に通じる「おもてなしの心」に貫かれた特別な時間を過ごしたいからに違いない。徳岡が力を入れる厨房とサービスの連携は、国境をも越えてお客様にとって大事なことなのだ。
日本料理が世界的に注目される今、実は徳岡のもとには世界各国からもイベントや大富豪のケータリングのオファーがひっきりなしに舞い込む。例えば2004年、イタリア・スローフード協会のイベントでは懐石料理のディナーを担当。京都嵐山の風情をトリノで再現した。大根で灯籠をイメージし和蝋燭を灯した八寸に始まり、ポルチーニ茸を使った茶碗蒸しやパルミジャーノチーズを使った栗ご飯……。徳岡の料理は国を越えて人の心に届いたのだろう。本人は「水がまるで日本と違う。20点の出来」と振り返るが、会場ではスタンディングオベーションをもって絶賛された。海外へは積極的に出掛け、食を通して日本文化を喧伝する。だが、行けば食材や水をはじめ、調理機器などのハード面まで様々な問題に直面する。トリノでのお造りは当初マグロを予定していたが、鮮度の問題で急遽牛肉に変更、絶賛された茶碗蒸しにしても水と火加減が違うため、卵がなかなか固まらない、など。しかし、どんな悪条件下でも徳岡は独創的なアイデアで新たな料理を生み出す。
「日本料理をつくっているという感覚はない。伝統というより祖父や父の生き方を見て私が感じたことを、持てる力の限り表現するだけ。あえて言えば、自分自身の料理を私のやり方で心を尽くして具現化し、お客様に感動を与えたい」
海外のマスコミも日本食が魅せるプレゼンテーションに絶賛。最近では欧米だけにとどまらずBRICsに代表される新興国に招聘される仕事も多い。日本食を知っている事はステイタスなのだ。 |
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今年7月洞爺湖で行われたサミットでの晩餐会。日本のおもてなしの極意と天然素材の美味を伝えたかった、という徳岡が披露したメニュー。
八寸:流水膳七夕飾り(和牛冷しゃぶ昆布風味アスパラ・ゴマクリーム。蛤・トマト・大葉の蛤スープ寄せ。車エビと昆布旨煮土佐酢ゼリー寄せ・浅葱。とろアボカド醤油ゼリー。ごり飴焚。丸十。八幡巻。焼霜鱧ジュンサイオクラ南京ユリネ山葵)/スープ:オホーツク産毛ガニのビスク/魚料理:キンキ塩焼き、焼き野菜、蓼マスタード酢を永樂妙全赤絵皿に。 |
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