調和する、同化する、
二つの極み。
「焼物」は鮎。一丁いただいた後、もう一丁が皿にのる。二丁を一緒にのせたのでは冷めて固くなるからとの配慮である。たで酢に端をしめらせ、清涼にして苦味の立った味を堪能する。
「焚合」は茄子と近江牛のいぶし肉。これは今日の催しを意識して用意された一品。日本酒ではなくワインに合うことを前提として登場した。
滋味深い。茄子もまた柔らかな肉の食感を有している。ドンペリニヨンはそれまでの料理ともわけ隔てなく、柔和に寄り添っている。
御飯、果物、水菓子と続き「嵐山吉兆」でもドンペリニヨン・ディナーは終幕した。
料理長の徳岡氏が姿を見せ、こうあいさつした。
「店を守っていく料理人として、伝統を大切にしなさいとよく言われます。もちろんつねにそれを貫いてはおりますが、時代に合った仕事をしなければ店の名を守り続けていくことはできません。今日はその機会と与えていただき、感謝いたします」
ジェフロワ氏は少し神妙な顔つきで次のように返した。
「フランスと日本の二つの伝統ある偉大な文化が手を携えた夜です。徳岡さんのドンペリニヨンへの理解がたいへん深いことは、一品目からよく伝わってきました。ありがとう。心からお礼を申し上げます」
ドンペリニヨンと「吉兆」。飲と食の最高峰に位置する両者は、予想を上回る高次元で結ばれた。この日の参加者は、味祭の極みに惜しみない拍手を贈った。
外は川の流れだけが静かに夜を転がし、嵐山は空と同化していた。
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