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キーワード 其の三
存在価値

---利用される存在になれ
嵐山店の調理場に入社してくる若者に、徳岡はよく質問する。
「君は、将来何がしたいのか」
すると、
「答えは大きく分けて3つ。1つめは、独立したい。2つめは、ここの板長をしたい。3つめは、前者2つめと違い、料理道を極めたい」
徳岡はそれらの意見にたいして、反対も賛成もしない。ただ必ず、社員に伝えることがある。それは、
「人と人との接点を大切にしなさい。それを積み重ね信頼される人間になりなさい。そしてみんなに利用される存在になりなさい」と。
ここで徳岡の言う「利用される存在」というのはネガティブな意味ではない。存在価値の有無、人から頼りにされない人間は、ダメということ。さらに徳岡の理論でいけば、別に吉兆をブランド化しようと意識したわけでなく、社会から必要とされる料理店の存在を目指してきたことが、今日の吉兆の成功の秘密なのだということになる。


「世界之名物、日本料理」が世界を超える日

次の世代に何が残せるのか、何を伝えなければいけないのか、それを考えることがビジネスにつながると徳岡は考える。
「ビジネスとは騙して金を得るのではなく、人の役に立つ事をしてその代償に相当分を頂くという事です」
食材、食料から見た環境問題や教育問題にも取り組み、社会に貢献したい。お金儲けにつながらないことでも、結果的に食文化の発展につながればそれでいい。来る、2004年10月には、イタリアのスローフード協会から、その世界大会で、嵐山の雰囲気と味を再現し、世界各国のスローフード協会の役員たちに日本の神髄を伝えてほしいと招聘を受けているそうだ。
「共に生きるという事がすべてです。そのために必要な物を創造し提案していきます」
と徳岡は言い切る。世界の中の京都を意識しながら、世界でたったひとつの料理も、そして経営も芸術品。それが嵐山吉兆、徳岡邦夫の存在理由なのかもしれない。 (本文中敬称略)

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