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吉兆にお客様がいらして、感動で涙をボロボロと流してもらうにはどうしたらよいのか考えています。京大に行って「食べたら感動して涙が流れる成分はないか」と聞いてみたことも。当然そんなものはありませんでした。では、どうすればよいのか。
僕は年に数回、従業員を集めて「食材コンクール」を行っています。目的は「お店で使う食材をみんなで選ぶため」でしたが、今では従業員教育として欠かせないイベントです。米なら新米の時期に、5種類ほどをブランドで味見します。その中から各人がおいしいと思うお米と選んだ理由を発表しますが、「米が艶やかで香りがよい」「噛んだときの粘りと喉越しがよかった」など、おいしさの観点はまさに百人百様。食べ物のおいしさを決めるのは味覚だけではないと、皆、理解するのです。
人間は、料理の味を舌だけで判断している訳ではありません。料理の色彩や香り、器を通して手で感じる温もり、噛んだときの音や食感など、五感のすべてで感じながら、過去に食べたものの情報と比較して、総合的に判断しています。五感の中でも一番情報量が多いのは視覚です。過去に食べたことがあれば、見ただけでそれがおいしいかどうか、ほぼ判断できます。
 
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