次は嗅覚。僕がだしの加減を判断するときも、香りで味の見当をつけます。味見はしません。肺の中の空気を一旦吐き出してからだしの香りを吸い、鼻や口の中いっぱいに充満させ、目を閉じて静かに感じるのです。これは特殊技能ではありません。五感で経験してきた味覚情報を理論的に分析して整理し、記憶し、必要な場面で引き出させる訓練をすれば誰でも出来ます。料理上手は、情報処理能力を鍛えている。
実は去年ミシュランから掲載のオファーがありました。知らないうちに何度もお店にいらしていただいたようで「ぜひ掲載したい」とおっしゃっていただきました。誠に光栄なことだったのですが「『東京吉兆』が辞退したのに、うちが受けるわけにはいかない」と母に反対され、お断りしました。すると、すでに掲載を決めていた他の京都の料亭も次々辞退されてしまわれたそうざす。
でも、次にそんなお誘いがあったなら、掲載していただこうかとも思っています。海外に行ったときの肩書きも「星付きレストラン料理長」のほうが、注目度が高いようですし(笑)ただ、ミュシュランの評価が絶対とは決して考えていません。チーズや肉を食べて生活してきたフランス人が、鰹と昆布の食文化を簡単に理解できるとは思えないからです。
僕は料理を通してお客様の五感を刺激し、幸せと感動を与えたい。それこそがどんなに権威のある評価よりも価値があると信じます。
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