松花堂弁当
    前のページ 123456789|10
(写真6)
皇太子御夫妻(当時)にお出しした料理のスケッチ(昭和53年4月23日)
さらに湯木氏はこの松花堂弁当を弁当箱としてだけではなく、お座敷でのお客様にも重宝な器として活用しています。例えば、皇太子御夫妻(当時)にお出しした料理の献立のスケッチ(写真6)に見られますように、最高のおもてなしを必要とする場面でも用いていました。その自由で柔軟な発想は、新しいものを創作する原動力となるものであったのでしょう。湯木氏の残された献立帳には松花堂弁当の数多くのスケッチを見ることが出来ます。

湯木氏は料理に大切な要件として、味が良いことは勿論のこととして、加えて[寸法と分量]を挙げています。口に合う寸法、器に合う寸法、盛り付けてバランスのよい分量、食べて程よい分量などです。また料理の色彩についても細心の注意を払い、大切な要件としていました。そうした事を踏まえた上で、料理人の感性でもって考えられた弁当箱の寸法であり、色彩を含めた器の在り方で松花堂弁当は完成したといえます。

松花堂弁当は現在、日本中で広く用いられ、器として非常にポピュラーなものとなっています。何故それぼどまでの拡がりを持つようになったのかを改めて考えてみますと、繰り返しになるいうですが、料理の器として機能的にも美的にも非常に優れたものであることに尽きます。一見平凡なようですが、実際は非凡な器ということが出来ます。

湯木氏が弁当箱とする以前に既に松木地盆に料理は盛られていましたし、現在も以前のままの形の松木地盆を使われている料理屋さんもあります。しかし、もし元のまま松木地盆の形でありましたならば、松花堂弁当はこれほどまでに広く流布することはなかった、というのは確かなことでしょう。

「世界の名物 日本料理」のフレーズを掲げ、日本料理に大いなる誇りと希望を持っていた湯木氏は数々の食の器を創出していますが、松花堂弁当はその一つです。

(主任学芸員 末廣 幸代)
    前のページ 123456789|10
松花堂弁当閉じる
松花堂弁当について 松花堂弁当ものがたり