東田:農家のお話が出ましたが、京料理では地場の食材を中心に使われているのでしょうか、それともより食材があれば全国から集めるということでしょうか。
徳岡:湯木貞一の頃は地場のものだったかもしれませんが、今は流通が発達している時代ですから京都だけていうのはナンセンスですね。日本料理にはどこにボーダーがあるのでしょうか。どの地域のものでも鮮度がよく、生産者の気持ちがお客様に伝わることができればよいかなと。
東田:一次産業の方を大事にされて、それをお使いになって、それをまたお客様に伝えてと、お客様に満足していただくということが一番なのですね。
徳岡:その満足した気持ちを生産者に伝えてあげるということができないと駄目ですね。このような人が食べに来て、このように喜んでと、伝えてあげることで生産者の糧になる。
東田:それを伝えて、よりよいものを作っていただくという形になっている。
今回の対談は郷土料理というテーマでお伺いしています。ずばり京料理がどういうものか、お聞かせいただければ。
徳岡:京料理は何か。京野菜は何か。京都でできる野菜は全部京野菜。京都にある料理はまな京料理という程度のものだと思っています。
日本料理という言葉ができたのは明治維新と聞いています。海外のものが入ってきて、初めて区別するために日本料理という言葉が生まれたのだと思います。その流れの中で、ほとんど昭和に近い頃に京料理という言葉ができたと聞いています。京料理の規定はいまだにないのです。京料理は味が薄いとか言いますが、塩分濃度もほとんど人が美味しいと思う範囲の中で、変わらないと思います。
東田:京料理に限らず日本全国に郷土料理がございますが、郷土料理とかその土地、土地で採れたものを使った、体が欲しているもの、あるいわそこの土地にあったものということですね。
徳岡:昔は流通が発達していなかったから、との土地で採れたものしかなかったのです。山岳地方に住んでいる人は海岸で採れるものを、海岸で住んでいる人は海岸で採れるものを食材にして、その地域にあった体質に変わっていった。風土料理はそういうところからできてきたのです。
自給自足、地産地消という、その地域で採れたものをその地域で消費しましょうという言葉があります。確かにそれは、地域を守るためにはとても大事なことですが、それが成り立っている場合は、自分のところの町だけでよいものを独り占めにするのではなく、隣にも分けてあげて欲しいなと思うのです。私はスローフード協会のお手伝いをしており、今回は10月25日からイタリアのトリノでスローフード協会の世界大会があるのですが、自分たちの京都だけでなく、ちょっと隣の村にもという、そういう思い出参加します。
東田:海外の方もかなりいらっしゃる?
徳岡:嵐山店の話ですか?嵐山店には、外国人は5%くらいです。
東田:その人たちの日本食についての反応はいかがでしょうか。
徳岡:それなりに喜んで帰られる方もいらっしゃるし、ほとんど食べない方もいらっしゃる。食べない方はまれですが。
東田:美味しいと言って食べていく?
徳岡:そうですね。美味しいという、人間が生きていくために必要とすつ要素は、同じ人間だったらほとんど一緒だと思います。例えば塩分はどの人でも欲するわけで、体液の塩分濃度はほぼ一緒だと思いますが…
東田:外国人はひごろ食べていないようなものを、初めて食べるというケースも多いでしょうね。その反応はいかがですか。
徳岡:今は全然問題ないです。箸も普通に使いますし、日本料理は世界的に注目されていますから。それは美味しいしという段階でなくて、ベースしては健康、長寿、美容とういうところが大きいと思います。
東田:健康によいからということですね。
徳岡:そうですね。長寿とか。
東田:日本の文化ということで、風潮ということについてはいかがでしょうか。
徳岡:風流まではなかなかわからない。海外のイベントに行ってすごく思うのですが、日本の文化は全然違います。他の文化はヨーロッパとアメリカが中心で、アジアもそうですが、ほとんどお皿とカップ、ナイフとフォークなのです。アジアでは箸のところもありますが。日本だけです、多様な漆であるとか、染め物、焼き物があったり、足袋とか畳みとか。
東田:器とか、そういうものについては反応は少ない?
徳岡:自国とは文化が違うので、興味はあると思います。
東田:外国の方に、日本の食文化というのは異端に思われている?
徳岡:今までにないものだったと思います。アートの世界はもっと前から日本の異端さを知っていたのですね。例えばゴッホが浮世絵を真似したり、モネが日本的なものを収集したり。食文化もそうです。ポールポキューズが日本に来たときに、吉兆を毎日通っていたのですね。それをフランスに持って帰ってヌーベルキュージーヌという新しいスタイルのフレンチを作り出した。そのときはブームだったのですが、今は本物の日本食を味わいたい人が世界中に増えています。本物の日本料理に注目し始めている。
東田:それを正しく伝える人が必要ですね。
徳岡:正しく伝えることと、知的所有権を守っていくことが大事だと思います。日本の一次産業は大変レベルが高いのです。作る技術と管理する技術を外国に取られてしまわないように、知的所有権をまもっていかないといけない。