―吉兆という存在だけでなく、日本の文化そのものの良さの発信をと?
徳岡:海外に日本の文化を紹介しようという時期は過ぎたと思うんですよ。ただ紹介しても意味がない。それでは日本の良さを認めてもらえず、タダ使いされるだけ。パリの三ツ星レストランではのりが使われていたり、生ウニをすしのようなイメージのミルフィーユにしたりと、ほとんどのレストランが日本のテイストを取り入れ、フランス料理にしています。要は、日本の良さ≠押し売りしても仕方がないということ。日本人は勘違いをしているんです。
日本の文化を海外にということで売り込んでいますけど、日本の一次産業は皆、いいところを取られてカスを食わされている。そうしてどんどん衰退していくようではだめ。間に入っている業者が儲かるのではなく、一次産業がこれほど積み重ねてきたソフトというものをお金に換える仕組みを作りたいなと思っています。
―スケールの大きな話ですね。
徳岡:それをするには海外に信用が必要。そのためもあって今回、イタリアの食器メーカー「リチャード・ジノリ」とタイアップし、「吉兆」という名で和のシリーズを作ってもらうことになりました。
今も日本シリーズは出ていますが、はっきりいってボーンチャイナ。中国の文化から派生した陶器で、本当の日本シリーズではない。デザイン画などを送っても私どもの思う通りにはならないと思ったので、この前フィレンツェに、実際うちで使っている江戸時代初期、一六○○年代の小染付けを持って行き、「まずはこれと同じものを作ってくれ」という話をしてきました。ジノリは一七三○年代の創業ですから、それより百年以上前の、いわばジノリの成り立ちの根本を持っていったものですから、向こうの技術者はすごく喜び、目を輝かせていましたね。
作ったものはうちが全部買い取り、世界中に販売するという話をしていますので、リスクがあるのですが、世界に信用を作るといううえではすごく意味があり、そのための手段だと思っています。今回はジノリですが、バカラ、フォションなど、いろんなところとタイアップできます。そのことで日本が本当に活性化し、いい意味で豊かになるための仕組みを作ることが、吉兆の使命なのではないかなと思っています。
海外の日本料理店に対してちゃんとした日本食を出しているかを認証するのも文化を伝える一つの方法だとは思いますが、まずは対等にきちんとモノをいえる国にならないとダメでしょう。
今の日本はほかの国々にいいようにされ、若者は自分たちの文化も知らない。アイデンティティーが本当にない国になっていて、若い人たちが皆、自信をなくしている。そういうのを未来に引き継いじゃいけません。