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石黒:トリノで開催された「サローネ・デル・グスト2006」でのご活躍の様子をテレビで楽しく見ました。京都吉兆という日本の味を世界に広げるという徳岡さんの新しいことへのチャレンジは清清しいですね。
徳岡:最近は海外づいていまして、イタリア、スペイン、フランス、モナコなどのオファーが相次いでいます。今年5月にはモンテカルロ、来年はニューヨークの予定です。私は英語もフランス語もイタリア語もダメですが、何とか伝えたい、何とか理解したいという意欲があれば気持ちは必ず伝わるようです。
石黒:新しいことと言えば、イタリアの食器メーカーであるジノリとの事業化が進んでると聞きましたが。
徳岡:ジノリは1735年創業というイタリアでも老舗の食器メーカーですが、日本の小染付などはさらにその100年以上も昔からあるわけです。小染付など日本の伝統的な器を現代風にアレンジしてジノリが作れば世界で大ヒットするかもしれません。
石黒:小染付の繊細な感じは「日本人でなければ」という気もしますが。
徳岡:1600年代の日本の器は、一個一個すべて違います。窯の温度管理が厳密にできない当時では完成した器の不揃いは当然ですが、これを自然の面白さとして感じるのが日本です。海外では出来損ないと感じる人も少なくない。そこで本物の良さを伝えるために小染付の現物をジノリ本社に持参したところ、経営陣は小染付にはいまいちの反応です。そこで、実際に窯に携わっている現場の人々に集まってもらって小染付を見せたところ、最初は遠巻きに見ていた人達が次第に目を輝かし、強い関心を見せました。傍にあった小型の窯ですぐにでもチャレンジしょうということになり、一気に話が進みました。本物のもつ魅力は万国共通であることを実感した瞬間です。
石黒:これまでの伝統を生かした、洋の東西を問わない自由な発想がいいですね。ところで、ヨーロッパの食事は、宗教の影響もあるのでしょうが、絵画でもさまざまに描かれています。私でもダヴィンチの『最後の晩餐』とか、カラバッジオの『エマオの晩餐』、あるいはモネの『草上の昼食』とか、多くの名画が思い浮んできます。しかしながら、日本の絵画となると、明治以降はそうでもないですが、食事の場面が描かれることはあまり無かったように思います。
徳岡:言われれば確かにそうですね。海外の絵には食事するシーンが珍しくありません。西洋では食事はコミュニケーションであるという認識が根底にあり、食事を描くことで人のコミュニケーションを描こうとしたのかも知れません。
石黒:もっとも、浮世絵では見ているだけで楽しくなってくる戯画のようなものが沢山ありますから、これを庶民の絵画とみればいいのかもしれません。いずれにしても、食事に対する捉え方の違いが絵にも現れているように思います。
徳岡:でも食事が人と人とのコミュニケーションであるということは西洋でも日本でも同じだと思います。食事というコミュニケーションをより実りのあるものにすることが吉兆の本業であり、そのアイテムとして料理があるのだと思います。
石黒:確かに、言葉を超えたコミュニケーションのアイテムとして、料理は最高だと思います。今後とも、私たちもそうですが、世界中の人々を楽しませて下さい。(終) |
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