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ずは素材の調達だ。ホテルのシェフに相談し、プロのみが仕入れられる市場に向かう。そこであらゆる食材をじっくり視察する。野菜が面白い。しかも見た事もない茸類も多い。興味はむくむくと湧いてくる。特徴や適した調理法など市場の人に尋ねる。彼らの言葉に素直に耳を傾ける。これまでの自らの経験値と照らし合わせながら考える。いくつかの料理が像を結び始める。いかなる環境でも、可能性を追求するのが、彼の魅力であり真骨頂である。

もちろん日本からもちこんだ素材も多い。試作が始まる。一つの料理が出来上がる。ホテルのシェフとスタッフも含め試食。ここでも彼らの意見に真摯な姿勢で向き合う。食する人々の大半はイタリア・フランス人である。その人たちが好む、塩分濃度や厚みや硬さを知りたい。技法は日本料理。だが食べる人たちの習慣に合わせてこそ、真価を理解してもらうことができると考えたのだ。

八十余人のディナーを作る。『吉兆』の料理人は徳岡さんを含め四名。ホテルスタッフの助けがなくては成立しない。彼は、自ら作りたい料理のスピリットとイメージを語る。対してシェフの考察が加わり献立は、どんどんシェイプアップされてゆく。臨機応変。判断が極めて素早い。料理の組み立てがしっかりなされているからこそだ。厨房での料理人同士の距離感がどんどん緊密になってゆく。『嵐山吉兆』に近い笑顔が生まれてきた。「笑いながら料理したほうが、いざというとき集中力が高まるのです」と徳岡さんが話す、厨房の雰囲気が、トリノのホテルで再現されきたのだ。

ホテルの厨房は、まるで「嵐山吉兆」のようだ

厨房では綿密な打ち合わせと試作・試食を繰り返す。想定外のことが起こるのはイベントの常。それをいかにコミュニケーションで乗り越えてゆくかが大切。今回は厨房が一体となったことが成功の要因。

ホテルのスタッフが作ってくれたまかない(料理人が仕事中に厨房で食べる食事)をぺロリと平らげる徳岡さん。どんな状況でも旺盛な食欲の持ち主であり続けるというのも、料理人としてきわめて重要。

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