厨房では、『吉兆』の料理人が盛りつけ、それをホテルのスタッフが同じ料理を次々と作ってゆく。この流れが相当スムーズ。それぞれの琴線同士がピンち触れ合うのを感じる。
八寸が厨房から客席に運ばれる。長方形の器に、甘鯛、黒豆、牛舌、マッシュ、ピーマンと柴漬け、肉の昆布締めと並ぶ。客の表情が一気にゆるむ。圧巻はメインの前に供された湯玉のバローロソース。バローロをたっぷり使ったソースの中にとろとろの温泉玉子が入る。現地で調達したタマゴ茸の香りが生きる。「これは傑作だわ」とイタリア人ジャーナリストが笑みを浮かべながら話していた。
日本料理は間の料理とも言われる。一皿と次の一皿の間が問題である。十分以上待たせると間抜けとなる。それを回避すべく厨房はフル回転し、サービスは食べ手の様子を逐一報告する。今回もその連携は見事であった。デザートと抹茶を出し終え、徳岡さんがホールに出る。前回同様万雷の拍手が湧き起こり、メニューにサインを希望する人たちが列を成した。成功である。「次回があれば、もっとイタリア料理に寄っているかもしれません」と。ここに彼の考える日本料理を伝える、ということの精神が潜んでいるのだ。