銀座4丁目の交差点から西銀座通りを入ってすぐ、「茶・銀座」瀟洒な構えが見えてくる。ここが本日の茶会の会場となる。夕闇に包まれるなか、三々五々集まる客人は、まず1階のエントランスを入って「山崎の名水と観月の茶会」と書かれた奉書への記帳をすませ、2階へ向かう。細長い部屋をぐるりと囲む形でしつらえた木のベンチシートのところどころにガラスの板がおかれ、そこをテーブル代わりに使うという、ラフなスタイルが気持ちいい。木、石、金属を上手に用い、直線と光の効果を駆使したスタイリッシュな空間の中では、茶会という連綿と続いてきた古式ゆかしい形態すらも、ぐっと現代に近づく。
茶道の心得のない読者にに、茶会の流れを簡単に説明しよう。茶会とは、平たくいえば、もてなす側の亭主が、何人かの客を招び、最高のお茶を味わってもらうために、あれこれと工夫をこらす宴のことだ。まずは酒で乾杯をし、趣向を凝らした季節の食事を堪能し、その後、菓子を味わい、最後にメインイベントである抹茶に行き着くというのが、大筋の流れだ。酒も食事も、甘みもすべてに最高の素材を使い、考え抜かれた段取りを踏むからこそ最後のお茶もおいしくいただける。
いよいよ客人が揃って、全員が席へついたら、まずは一献だ。一般的な茶会では、日本酒を注ぎまわす場合が多いが、今回の茶会は、京都郊外・山崎の地で育まれたシングルモルトがその役を担う。持ち手に満月のごとき籘の輪をあしらった、粋なデキャンタに移されたシングルモルト山崎は、しっとりと琥珀色の輝きを放っている。揃いの小さなグラスに注ぎ分け、亭主・北見宗幸氏自らが、順に客に渡していく。そして酒盃を頭上に押し頂き、一献。厳粛に、かつ晴れやかに、観月の茶会が幕を開けた。しかし、そこは婆娑羅な会。小さなグラスに注がれたシングルモルト山崎をゆっくりと味わいながら話すことで、凛と張り詰めた緊張感がほどけ、和やかな雰囲気にに包まれていく。
ほどなく漆の緑高に盛り込まれた、色とりどりの点心が配られる。海老旨煮、帆立付け焼きなど伝統的な品から、合いの手を務めるシングルモルト山崎との相性を考えて料理長が考案した、鯛キャビア巻き、焼き茄子生ハム巻きなど、斬新な料理も点在し、次はどれに箸をのばそうと、楽しさもひとしお。思わず好みの加減に割ったシングルモルト山崎の盃も進む。