しばらくのち、松茸と海老飛竜頭の椀が運ばれ、あたり一面が華やかな香気に包まれる。シングルモルト山崎の馥郁たる香りとも見事な相性を見せ、一層食が進む。続いて、魯山人の総織部鉢に盛り込まれた進肴が運ばれてきた。あでやかな緑の釉と、鱧松茸巻きなどの料理の相性のよさに目を奪われる。きぬかつぎに枝豆と、名月につきものの品々も盛り込まれ、客人の頬をほころばせる。次々椀のふたに取りまわし、なごやかに食事が進んでいく。
そうこうする間にも、座の話題はとぎれることがない。建築家の三木啓司氏を中心に、モダンな庵の建築のことで盛り上がる輪ができ、一方、釜師・大西清右衛門氏の古美術の深い知識に引き込まれる者もある。またリーマン・ブラザーズ柴田優氏の話がつきない。世は違えども、桃山、江戸、明治と、それぞれに、時代の先端を切り拓いてきた、賢人、粋人たちの茶会のごとくだ。時代をつくり、時代を動かすエネルギーに満ちた茶・銀座の夜は更けていく。