宮内:実は今回が初めてのお茶会だったんですよ。徳岡さんからお誘いのメールを頂いて、気軽に返事をしてしまい、よく読んだらお茶会とあるではないですか。これはやばいなと。
徳岡:いえ、いえ。あくまでパーティをそういった形式になぞらえて、忙中閑ありの精神で、ひとときをしずかな気持ちで楽しみましょう、という趣向ですから。
宮内:私も以前から、お茶はいいなあ、いつかきちんとやりたいと、ずっと思っていたのですよ。実は自宅に茶室を作ったほどでして。いわいる洋風の作りのいえなんですけれどね、炉を切って。女房がお茶をやるものですから。今日も徳岡さんに習っていらっしゃいと、家を送り出されたわけです。実際にぴんと背筋をのばして座って、うやうやしくお茶をいただくというのは、実に気持ちいいものですね。
徳岡:それはいい体験になりましたね。私も逆にこうしたお茶会の経験はあまりない。いわいる座敷でという茶事とは全然違いますね。新しくて、肩肘張らずに、あまり知識がなくても十分に楽しめて。けれど、お茶の根本というか、人と人との会話を楽しむという、本質はきちんと押さえられていて…
宮内:千利休からの歴史を振り返ることにもなり、勉強になりました。
徳岡:そうですね。道具の取り合わせも、心を配られていて、河井寛次郎の民芸から、桃山時代の伊羅保の茶碗や江戸の釜まで。実に多彩で、洒落もきいていて、面白かったですね。
宮内:釜が特に印象に残りました。
徳岡:私は、良寛さんの、雲月の文字ですね。飯を炊く釜のふたをあけたときの湯気を雲に見立てて、とは素敵な話でした。また、こうした形式ですと、仕事の帰りに手軽に参加できる利点もありますよね。
宮内:場所も銀座ということで便利ですし。でも、随分粋な場所があるんですね、銀座の真ん中に。驚きました。
徳岡:ただね、本来のお茶というのはやはり異なるものです。空間が全然違いますから。瞬時に、日常から、非日常の世界に入り込むことができるのですよ。けれど、それは毎回毎回できるわけでもないし、習得するための時間もかかるし、道具を買い集め、揃えるためには膨大な金もかかります。誰にでもできることではない…。とすると、今日のような試みが生きてくるのですね。
宮内:水へのこだわりにも感心しました。茶を点てるにも、酒をつくるにも、根本には水があるのですね。ところで、名水点というのは、あのように、皆で水を回して飲むものなのですか?
徳岡:そうなんでしょう。いや私も正式な名水点の会に出席したことはないので。釣瓶の水指に御弊さんを巻いてというあのスタイルは知っていましたが。本来は立礼の席で行うもおではないので、最初はあれ?と思いましたが、慣れてくると、モダンな茶席に妙にマッチして見えてくるから不思議ですね。
宮内:やはり、「山崎」を仕込む水が利休に通じるという、きちんとした背景があるからなんでしょうね。そういう思いがあるからか、とても水が美味しく、神々しく感じられました。
徳岡:うっすら木の香りがつくんですね。どこかとろりと甘いような。皆で回しのみするスタイルというのも、一つの世界を共有できて、引き込まれるようなところがありますね。
徳岡邦夫さん(46)
京都吉兆嵐山店総料理長
吉兆の創業者・湯木貞一の孫。高校卒業後、僧侶生活を経て、大阪の湯木氏の下に再入門。95年から京都吉兆嵐山本店の総料理長として活躍。文化としての日本料理の伝統を受け継ぎ、守ることはもとより、常に世界に目を向け、新しきをとりいれる進取の気性に富む。06年10月トリノで開かれるスローフード世界味覚博覧会に招聘された。
宮内 謙さん(56)
ソフトバンク取締役
ソフトバンク黎明期に入社。孫正義社長の女房役として会社を支えてきた。ソフトバンク役員に加え、携帯事業のソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)、YahooBBで有名なソフトバンクBBと固定通信のソフトバンクテレコム(旧日本テレコム)3社の副社長兼COO。サイバー大学設立を目指し、日本サイバー教育研究所の社長も兼務。