茶筅をふる手も美しく、丁寧に一服の茶が点て始められる。同時に、客人達には名月にちなんだ可憐な2種の千菓子が配られる。1つは満月を象った麩菓子。他方は洲浜でできた枝豆と、なんとも愛らしい。また、それらを盛った菓子器は、待庵の修復時に出た古材で作られたものだとか。どこまでもどうぐにこだわるのが、もてなしの心を尊ぶ茶人の性ともいえよう。そして「京都・山崎の水にあわせ、東京都の水で点てるよりも、気持ち濃いめに点てました」と、水の違いを知り尽くした、亭主からの一言が添えられる
こうして、記念すべき一椀めが、正客であるソフトバンクの宮内氏の手に渡る。軽い礼ののち、清冽な茶の香りに身をまかせ、美味なる薄茶をを味わい尽くす。飲み終えたあとには茶碗を手にとり、拝見。大ぶりの図柄の力強さに、茶の余韻が一層高まる。
一方、亭主は、そうした道具組の意図を絶妙のタイミングで解説していく。というのも、「茶とは五感で楽しむもの。目で見、舌で感じると同時に、耳で開設を聞くことで理解を深め、楽しみを増してやるのも亭主の役目ですから」と北見氏は言う。
律された静かな空間の中で、次々に薄茶が運ばれていく。詰めの一人が味わい終える頃には、山崎12年の一献に始まり、美食、甘味、そして、茶に行き着いたという、満ち足りた空気が空間を支配していた。
茶をいただいたあとっは、道具拝見だ。北見氏が心を砕いた、なつめ、茶杓、茶碗、蓋置、そうしたものを改めて間近に拝見し、あるものは手にとって、またあるものはさらに細かな質問をしながら楽しむひと時。客人の興奮が最高潮に達する道具拝見は、北見氏曰くコンサートのカーテンコールにも似たものだとか。立礼席というステージでの演目が終わって、ほっとすると同時に、勝負に勝ったなという、達成感がこみ上げる瞬間であるとも。各人、一期一会の友と酒、そして茶に名残を惜しみながらの、なごやかな散会となった。