ご案内をしたためただけで、茶人気取りの大威張りだった私。だが、松源院さまをはじめとするお客様全員から、すぐさま丁寧なお返事をいただいて、真っ赤になって恥じ入った。さらにお茶会の後、五通のお礼状を受け取るや、今度は青くなった。「お茶にルールはない。マナーがあるだけ」とおっしゃたのは、裏千家のお家元だった。これが「マナー」というものなのだ。そしてその「マナー」は、茶人のみのものではない。私はなんと野蛮人だったのだろう。
「無知の知」というソクラテスの言葉がある。「知らない」ということを自覚することが、ほんとうに「知る」ための出発点なのだそうである。私は茶の湯について、何も「知らない」ことは知っていた。でも、こんなに「知らない」なんて思ってもみなかった。
この一年まりの「茶の湯はじめ」の連載は、だから、「知らない」ことの発見に終始した。本当の意味での「はじめ(出発点)」は、ひょっとしてこれから先にあるのかもしれない。
―檀ふみ
「茶の湯はじめ」は今号で最終回を迎えましたが、檀さんにしばらくお休みいただいた後、今度は裏千家家元のご指導による「茶の湯はじめ 家元指南」を連載として開始する予定です。檀さんの新たな挑戦にご期待ください。
撮影/川名秀幸(二三八貢の手紙とも)
大徳寺・松源院の泉田玉堂老師から届いた「後礼」。檀さんの初茶会にかける真情に触れられたお言葉が綴られている。
老師による一筆「億劫相別而須臾不派離」はさらに、「盡日相対而刹那不対」という句が続く。「瞬間瞬間を大切に生きよ」という一期一会の精神がここにも息づく。