■マドリッド・フュージョン記事

マドリッド・フュージョン、アロマと味、未来志向のバリエーション

1月18日から20日まで開催された「マドリッド・フュージョン」の舞台で、最も頻繁に使われた言葉が二つある。アロマと味、まるで神の言葉のように、繰り返し語られ、第3回国際ガストロミーサミット参加者の最大の関心事のようだった。今回の大会は、高級料理という枠をこえて、食に関する哲学の深化という領域にまで踏み込んでいった。先端技術の誇示とサイエンスフィクションの中で、多くの有名なシェフのレシピは、創造性と技は素材を活かすために使われていくものという方向を示した。また、将来の偉大な料理は味のフュージョン以上に、地方の伝統料理の復活と、それとの混合に基づくべきものであることも示した。
アドリアAdria、アルサックArzak、ベラサテギBerasateguiとその他のスペイン人シェフたちが液体窒素やドライアイスや炭酸ガスを駆使して作った料理や、日本人シェフ脇屋ユウジが見せた、1000年以上の歴史を持つ中国伝統の熱い石にお茶をかけて蒸す料理もモダンで楽しいものだった。グルメ高級ケータリングの基地から、冷凍状態で配達された料理の再生(加熱して水分を加えること)と組み立て(盛り付け、サービス)だけを行うノン・キッチンレストラン構想など、都会で今最も新しい傾向も発表された。

独自のクリエーション
一方、現代の料理で忘れてならないのが、ダイエットへのたゆまぬ取り組みである。印象的だったのはダニ・ガルシアDani Garcia(ホテル・メリア- レストラン、ドン・ペペDon Pepe)が見せた、オリーブオイルを使った新しいテキスチャー(カルマッチョ、ミガ、ポップコーン)、パコ・ロンセロPaco Rocero(カシノ・デ・マドリCasino de Madrid)の、ゼラチンをベースにしたオリーブの菓子やスペゲッティ。これらはいずれもオリーブのジュースを中心食材として利用したり、その味を深めようとする取り組みである。セネン・ゴンサレスSenen Gonzalez(レストラン・サガルトキSagartoki)は、グリルでフライをする新しい技を披露し、イニゴ・ラバド、アンドレア・マドリガル、ペペ・ロドリゲス・レイのトリオは、まったく新しい高級タパスのアイデアを披露した。カディス出身のアンドレス・レオンは、海炭のオイルと、魚眼とうろこを使って泡と膠状のクリームを作って見せ、ジョアンとジョルディ・ロサ兄弟は、消えやすいアロマを留め、香草の蒸気で食品に香りをつける方法を発表した。様様なアイデア(アスパラガスのボール、レンズマメの蜂蜜かけ、ポップコーンパウダー)で圧倒的な存在感を示したフェラ・アドリアは、カミロ・ホセ・セラ大学に新設されるガストロノミー文化・食品科学科教授に任命された。

西洋と東洋
このようにさまざまなアイデアが発表され、変遷という言葉が現代性と同義語で使われた今回の大会に、東洋を代表する6人のシェフたちも参加した。東京で日本の代表的料理学校を主宰するハットリ・ユキオ氏は、儀式性を感じさせるレシピで、感銘を与えた。同じく東京から参加した徳岡クニオ氏(吉兆)は、複雑な懐石料理(または宮廷料理)の神様であり、その基本は5という数字に象徴される(五感、5つの味、五色、五方角、五種類の料理…)という。シドニーから参加した、ワクダ・テツヤ氏の料理は純粋さの見本ともいえ、ビネガーを駆使して酸味のある料理に独自な解釈を示した。有名な松久ノブ氏は脇屋氏の助手として登場し、小西トシロウ氏は、リマ(ペルー)から参加した。
1ヵ月後(2月28日から3月1日まで)マドリッド・フュージョンの旗のもとに、フェラ・アドリア、フアン・マリ・アルサック、マルティン・ベラサテギをはじめ重要なスペインのシェフたちが、日本を訪問する。会場は服部調理学校で、4月に開催される愛知万博のスペインパビリオンのプロモーション行事の一環として開催される。
(以上、村瀬孝子訳)

左:Expansion紙
右:ABC紙

Expansion紙(22th Jan 2005)

完全なる調和
本セッションは、「吉兆」(高級レストランである「料亭」)から来た徳岡邦夫氏−洗練された日本の宮廷料理である「懐石料理」の代表―で幕を閉じた。高名な料理人の息子であり孫である彼は、「日本人にとってレストランに行くのは、香りや音、皿の配膳、そして、何より秩序を鑑賞する儀式に参加することである」と説明した。日本の天皇を含む彼の顧客は、桜の花と一緒に飾られた野菜の載った一皿の鮨を堪能している。また、「八寸」、即ち、『五つの色、五つの味、竹の上に盛られた五つの様式は、これが顧客の前に差し出されたとき…となるように完全な調和と伴っているのである』
(注記)「…」の部分は、何故か文章が途切れています。どこにも文章の続きが見当たりません。

ABC紙(21th Jan 2005)
徳岡邦夫氏(京都・東京の吉兆)は、「懐石」料理の儀式と繊細さ、そして、その複雑な哲学をステージで披露した。「懐石」とは、日本の宮廷料理であり、その中では「五」という数字が一つの指針となっている。即ち、5つの味覚、5つの色彩、5つの方向、五感といったものである。『わが国では、食の楽しみは、味覚だけでなく、他の五感にも結びつくものです。ですから、私は今回のフュージョンを”感性の融合”であると理解しています』。彼の顧客には、日本の皇族や多くのハリウッドスターがおり、彼のレストランで食事をするために、600ユーロを支払ってやってくるのである。

EL MUNDO紙(21th Jan 2005)
その後、マドリッド・フュージョンの厨房は、マエストロ徳岡邦夫氏(東京と京都の吉兆)の哲学と洗練された技術で満たされた。彼の準備やプレゼンテーションの仕方は、歴代の料理人から伝えられたものである。今日、彼の料理は更に洗練され、日本の尊敬の対象となっている。


EL MUNDO紙