徳岡ディナー
Text by Toshiya YOSHIKAI
Photo by Chiiho SANO
トリノにサローネ・デル・グストを訪れるのは一昨年に続いて2回目となる。一度目もその規模、構想の大きさに驚いたが、2度目の今回はテッラ・マードレという5000人規模の生産者会議を同時開催するというので、もっと驚いた。この生産者会議に関しては、カルロ・ペトリーニ会長が計画をぶち上げたのが昨年の6月であるから、正味1年半足らずで実現までこぎつけたことになる。途方もない行動力というか、恐いもの知らずというか、いい意味で「計画性」が無いからこそできた、楽天的なイタリア人ならではのことなのだと思う。これについてはサローネというイベント自体も同様で、ただの食品展示会であれば回を重ねるごとにルーティンの部分が増え、運営にも慣れが加わり楽になって行くと思うのだが、300以上のワークショップやらセミナーやらがくっついているので、毎回はっきり言ってカオティックな状態だ。それをいつも何とかしてしまうのだから、そのさばきの力加減には皮肉でなく頭が下がる思いだ。しかしそのおかげでサローネが近づくと、ブラの本部とはまともに事務連絡が取れなくなるので、スローフード・ジャパンの人間としては困ったことが何度もあった。
その中でもこの特別ディナーというのは、世界中から最高の料理人たちを招待して、慣れない土地でそれぞれの得意料理を作らせようというのであるから、特に手筈が大変なはずだ。これは主催者側だけでなく、招待された側もそうであろう。特に日本料理の場合は、食材の調達、調理器具の手配、器の問題、配膳の仕方など、課題が山積みになる。京懐石をと請われた徳岡さんは、本当に大変だったと思う。不愉快なことも多々あったに違いないが、徳岡さんはいつも穏やかかつ真摯な態度で準備に取り組んでおられた。ディナーが終わり、感激した客たちは挨拶にでた徳岡さんをスタンディング・オベイションで迎えた。それだけ料理を含めたディナー全体のパフォーマンスが高かったのである。そのあとにお話を伺ったが、その際「まだまだ納得していません。次回のサローネにもぜひ呼んでもらいたい」と言っていただけた。本当に次回もぜひ、サローネで京都吉兆の味を再現していただけることを、スローフード関係者としてだけではなく、日本人の一人としてぜひお願いしたい。
吉開俊也(よしかい としや)
●環境雑誌月刊『ソトコト』の編集に携わる。同時に、ニッポン東京スローフード協会事務局で広報的な役割を担う。その一環として、昨年に引き続き、今回のサローネ・デル・グストにも参加した。
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