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サービスの真髄を追い求めて
無形とされるサービスを如何に具現化し、感動を形作るか。

Text & Photo by Chiiho SANO

日本人がイタリアに対して抱くイメージといえば、考えられないほどいい加減、時間を守らない、怠け者、陽気で開放的などといったものが多い。しかし、これらは日本人にとって都合の良い情報だけを切り取って形成された偏ったイメージであり、それはこの国の一部分にすぎない。そして、あまり知られていない別の一面は、家族、友達、自国、文化を大切にし、誇りを持って楽しく生きる彼らの姿だといえる。センスの良い服を着て、美味しい物を食べ、絶えず日焼けして、輝くような笑みを浮かべているイタリア人は、日本人がどこかで忘れてしまった原点、“よく働きよく遊ぶ”を実践している人生の達人と言える。また、一方で、悲壮感を微塵も見せずに、「人生はまず仕事ありき」と割り切って狂ったように働くといったオン・オフの切り替えに長けた達人でもある。そしてイタリアの真骨頂はといえば、何よりも「人間」が一番魅力的なことだ。人懐っこく細やかで、感受性豊か。一緒にいるだけで楽しく、人とコミュニケーションしようとする意欲がとても強い。とにかくイタリア人は、相手を一生懸命に理解しようとしてくれる。

それを一番感じさせてくれたのが、ホテルのサービススタッフだった。未だ見ぬ日本料理。欧米料理とは料理の順番も器も大きさも全く異なる。彼らにしても皆目見当がつかないのである。しかし、分からないからといっていい加減にしようとはしなかった。ディナー本番までにスタッフ側と行った打合せでのこと。通訳を介してのやり取りであったのだが、たとえ言葉が通じなくても、目と目を合わせて、身振り手振りで、何度でも分かるように説明をしてくれる。その態度というか姿勢に感動した。お互い初めてということもあり、それで不安が払拭できるわけではない。しかし、彼らの、お客さんに絶対満足してもらいたいという感情は、十分過ぎるほど伝わってきた。そして、サービススタッフだけではなく、その場にはシェフも立ち会ってくれた。彼らと相談したことといえば、お盆で運ぶ際、各料理は何皿ずつ載せるか、お盆からお客さんのテーブルへどう移すか、食べ終わった皿はいつの時点で下げるか、途中から箸に加えてナイフ・フォークを出す際、使わなくなったお箸はどうするか…。挙げ始めたら限がない。綿密な打合せは約2時間続いた。

サービスの基本に関わる問題と言ってしまえばそれまでだが、真のサービスとは何たるかを十分弁えていた。ある質問一つ取っても、沢山ある選択肢をすべて説明して、その中から気に入るものを選んで下さいとは言わない。一番自信があり、“その場に最適なもの”を提案し、我々に余計なことを考えさせない。そして、その責任を確実に持とうとしてくれる。それ故、我々は全てを知らなくても安心していられるような環境を創りだしてくれたのである。連日、ホテルの通常業務に加え、夜はこのイベントのために忙しく働いているにも関わらず、真剣に相談に乗ってくれた。彼らの"常にしているから"、"任せてくれれば良い"などという言葉に、どれほど助けられたか分からない。サービスを仕事にしていなくとも、胸にこみ上げてくるものがあった。

サービスといっても様々な形態や要素が含まれる。昨今の技術進歩により、本来人間がすべきはずのサービスの分野にも合理化の風が吹いた。その結果、より快適で便利、そして安心で満足の行くサービスを提供できるようになったが、サービスの一番大切な「感動」の提供は、人間しかできない。言い換えれば、人間に残された最後の仕事は、感動を生むためのサービスである。この感動を与えることこそが、サービスの原点であり、ホスピタリティの真髄ではないだろうか。技術や知識を深めることも必要だが、相手を喜ばせるホスピタリティこそが大切だと実感した瞬間である。効率化、大量生産、コスト削減が叫ばれて等しいが、幾ら世の中がそうであっても、お客さんの心を掴み感動させるのは、人間が施す心のこもったサービスでしかない。人の心配りにも効率化を適用するのは本末顛倒と言わざるを得ない。

文化の違い、生活習慣の違い、考え方の違い、気候の違い、歴史の違い、言葉の違い…。違いを言い出せば限がないが、感動というものは、その全ての違いを超えて誰にでも享受できる最も簡単な感情表現かもしれない。

左:
パオロ・マルカントニオ(PAOLO MARCANTONO)
ホテルの給仕長
中央:
ダニエレ
ホテル・メリディアンのシェフ
右:
ジャンフランコ・トラヴェルスィ(GIANFRANCO TRAVERSI)
ホテル・レストランのバンケット・マネージャー
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