水研究所情報
Societa Metropolitana Acque Torino S.p.A(=SMAT)
責任者:Ref. Ms. Lorenza Meucci
http://www.smatorino.it/
住所:Corso XI Febbraio, 14 10152 Torino . Italia
Tel. +39 011 4645.111, Fax +39 011 4365.575
「ラ・スタンパ」 トリノとその周辺ページ
ランツォ渓谷で採集され、ラボラトリーの技術者によって改良された
SMAT サローネ・デル・グストのゲスト、徳岡邦夫シェフが使用する、京都の水の「クローン」を作ることに成功
アレッサンドロ・モンド記者
石田 雅芳 邦訳
リンゴット・フィエーレで来週開催される(10月21-25日)サローネ・デル・グストのオーガナイザーは、明らかに譲歩せずにはいられなかった。京都にある「吉兆」の責任者であり、最も注目されている日本人シェフの一人である、徳岡邦夫氏の要望は絶対であった。トリノへの出張について、サローネへの招待を承諾すると言うことだったが、それには1つ条件があった。いや正確には2つ。日本の水と同じものを用意することだけではなく、彼のレストランの水と全く同じものを用意すること。それは何故か?日出ずる国の料理には、西洋の水は適していないからである。
これはシェフのわがままだろうか?そうかもしれない。この際言い訳は一切通用しないのである。彼専用の水という話は、ただのディテールと言うわけではない。青ざめるオーガナイザーに、彼は次のように主張したのである。つまり非常にデリケートな料理を、味の変更なしに提供するために、そしてサローネのような重要な舞台において失敗しないようにするため、これは最低条件であると。
この不思議なリクエストに応えるために、SMAT(Societa Metropolitana Acque potabiliは、)ラボラトリーで分析作業をしたというのが、最初のニュースだったが、次のニュースは、すでにこの企業が人々の不安をよそに、成功したというものだった。地球を周回する国際宇宙ステーションの、アメリカ人やロシア人たちによるものに加えて、新たなる評価を得ることとなった。興味は尽きないが、このステーションにもSMATが水を供給することになっている。アレニア・スパツィオの会議において、すでにサインが交わされているが、この栄光のステーション「ミール」乗組員の、リクエストに応える形で供給をするのである。つまりピアン・デッラ・ムッサの水に「魅了」されたアメリカ人には、軽いタイプの水を、ロシア人にはレジーナ・マルゲリータ通りの、ミネラルを豊富に含んだ井戸水に、何度も何度もテストをしたものが用意される。
今回はまさに、最後のフロンティア、日本である。そもそも徳岡氏であっても、日ごろ京都のレストランで使っている水に、一体どのようなものが入っているかなどということに、思いを馳せることはなかったであろう。トリノに配給される水は、言ってみれば正しいコピーであることが要求されていた。
残る問題は、水のサンプルを日本からもってくるのに、時間のかかる税関などを、できれば「ドリブルしながら」かわすにはどうしたら良いかということであった。これに対してはイタリア的な解決をすることになった。ここ数ヶ月の間にトリノと日本を往復したサローネのオーガナイザーたちは、京都からジャケットのポケットに、ラボラトリーで検査をするための小さな容器を忍ばせて戻ってきた。結果は3ヶ月後に分かった。昨年世界ウオーター・フォーラム(一般的呼称だが)が行われた、京都の水を「クローン」するということである。所長パオロ・ロマーノ氏は説明する。「最初は、我々が模倣することになる、この液体の特徴を調べた後に、入手できるものから材料を選択しました」。
原料となる水の出所は、最終的に2つに絞られた。1つはランツォ渓谷の源泉のもの。もう1つはスーザ渓谷の、ある井戸からとられたもの。ジョルジョ・ジッリSMAT理事、スバルピーナ大学衛生学教授が言うには、どちらも非常に軽い水で、この機会のために修正をほどこしたものとのこと。その「修正」とは?「PH値を増やし、ナトリウム、カリウム、塩素化合物の含有量を直しました。」さらにロマーノ氏が付け加えるには、この機会にSMATのいわゆる「水のソムリエ」たちも、大いに貢献をしたということである。
水の見本品は最終的に3つになった。20リットルの容器に入れて日本へ送られ、それらはシェフのチェックを受けることになった。徳岡氏が自らそれらを「秘密の方法」で実験した。詳細はトップシークレット。それでも漏れてくる情報によると何やら、伝統的な日本料理の多くのレシピに使われる、または添えられる、奇跡の出し汁が関係しているらしい。
それでどうなったか?結果はOKであった。煮たり味見をしたりという作業が、何度行われたかははっきりしないが、この日本のシェフの厳格な舌によって、ランツォ渓谷から取られ加工された水が選ばれた。奇跡の出し汁に欠かすことができない材料として、SMATが制作した水は、徳岡氏のために特別に作った特性ボトルで供給される。近々シェフは、高度に洗練された彼の料理のクオリティを実現してくれた、トリノのラボラトリーを訪問することを予定している。なべで煮えるものは、もう秘密ではなくなっていることだろう。
石田雅芳(いしだ まさよし/Masayoshi ISHIDA)●1967年福島県生まれ。スローフード協会イタリア本部、唯一の日本人スタッフ。同志社大学文学部文化学科、美学及び芸術学専攻卒業。専門はイタリアルネサンス美術。同大学大学院で修士号取得後、1994年ロータリー財団の奨学生として、イタリアのフィレンツェ大学へ留学。現在もフィレンツェに滞在し研究を続ける。1998年フィレンツェ市の公認美術解説員となる。2002年よりスローフード協会本部の日本担当として活躍中。
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