―50代の男が趣味でつくる料理って、すごく閉塞的で、自己満足的な部分が大きいような気がするんですが……。どうせ自分がつくった料理なんて、女房にも子どもにも相手にされないんじゃないかと、最初から諦めている。
徳岡:趣味であれ、必要に迫られてであれ、本気で料理をつくっているのだったら、料理に愛情を込めることができるはずです。奥さんにおいしいものを食べてもらおう。子どもにも親にもおいしいものを食べてもらおうと思ってつくってみてください。その料理は必ずや家族への愛や尊敬の念、大切に思う気持ちを伝えることができるものになるはずです。料理を媒介として、気持ちのやりとりができる。会話が生まれる。そこでまた新たな料理を考えたりする。料理は愛を伝える大事なコミュニケーションのひとつだと思います。
―でも、今はやりのそば打ち道場なんかで親父たちがそばを打っている姿を見ていると、修行僧のように自分の世界に浸っているという感じもします。
徳岡:修行僧はあくまでも修行僧なんです。自己満足が最終目標というのなら勝手にひとりで作り、ひとりで食べればいい。そういう意味では家庭の主婦のほうがレベルは高い。実社会で経験をしてその結果を受け止めているからです。理想を言えば、料理を作って家族に食べてもらい、さまざまな経験で味を構築していく……。そこには自分の努力や工夫が必要。そこに心の交流が生まれる。それが料理なんです。
―でも実際のところ家族のつながりって希薄になってきていますね。
徳岡:ご主人が、料理をすることで、バランスが取れるように思います。今まで、ご主人は仕事をしていたので、家庭の仕事をしていると奥様とバランスが取れていたのですが、仮に定年してしまうと、そのバランスは崩れがちです。より楽しい家庭を作るかっこいい旦那様になるために、料理は欠かせないものになると思います。
―徳岡さんは最近、家庭料理の本を上梓されましたね。その本でも「愛を表現するための料理」とメッセージを?
徳岡:ええ、愛する人においしく料理を食べてもらうためには、相手に合わせた工夫が必要になりますよね。たとえばお年寄りなら薄味にとか、若い人ならボリュームを出すとか……。料理の味に決まりはないわけですから。だから、こんどのレシピ集では、分量を載せることやめたんです。素材と手順だけ示して、料理を食べてくれる人の体調や状況に合わせて、味を見つけてくれればいいなと考えています。