日本料理は素材を生かしきることを要求される。もちろん「嵐山吉兆」の料理も例外ではない。おいしい料理をつくるには、必然的に素材のよさが求められるわけだ。数十年前までの日本は、どこにいってもうまい野菜がとれ、海では魚が揚がった。しかし、いま徳岡邦夫はこれからは素材選びが、おいしい料理をつくる第一歩であり、カギであると考えている。彼は厨房改革の一環として、自らの足で最良の食材を求め全国を回った。その中で日本の生産現場が危機に直面していることを知る。日本料理が世界に誇れる食文化としての地位を守りつづけるためにも、第一次産業の再構築の必要性を実感している。徳岡は一昨年、京都スローフード協会の設立に参加し、その中心メンバーとして精力的に活動している。
取材中のある日、徳岡が「明日、近くの農家に野菜を取りに行く」というので、ごいっしょすることにした。「嵐山吉兆」がいつも野菜を仕入れている太秦の長澤農園。住宅街のなかに30アールほどの畑が広がっていて、農園主長澤源一さんが待っていてくれた。